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玉川麻衣の作品、日記、展示等のお知らせです。  新しい作品はカテゴリー「ペン画1」に入っております。 個展 7月:八犬堂ギャラリー(京橋) 10月:ストライプハウスギャラリー(六本木)
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小学校の大山羊小山羊
 
 
夢を見た。


私は小学校に忘れ物をしてしまった。
土曜の夜に気が付いた。
手を入れて月曜に提出せねばならない。
取りに行かねばならない。
 
 
どうしよう。
誰もいない学校へ入り廊下を歩いて教室へ…
考えただけで腹の内が冷たく縮こまる。
咄嗟に母に相談しようと思ったが、高齢の母を無理に起こすわけにはいかない。
そうだ。私は既に小学生ではなかったのだっけ。
 
 
日曜の朝の町は静まっていた。
正門の隣の酒屋もまだ開いていない。
門の脇の松の木は、私が通っていた頃よりもだいぶ育っているようだ。
重い鉄の門をよじ登って超え、ロータリーへ向かう。
 
 
ロータリーにあった植え込みはなくなり、アスファルト敷きの地面が広がっていた。
中央に大きな白い布が落ちている。
汚れてはいないが乱れた様子で、金属製の細長い棒が何本も乱雑に突き出ている。
倒れたテントのようだ。
近寄ると、布の彼方此方に「PTA」「本部」「○○年度OB」などの文字が見えた。
複数の布を張り合わせてあるらしい。
 
 
目の前で布が動き始めた。
音もなくするすると持ち上がり、金属の棒も集まって立ち上がり…テントの形が組み合がる。
薄曇りの空を背景に、三階建ての校舎と同じくらいの高さの、絵本に出てくるサーカスのそれのような三角錐のテントが現れた。
テントは少しの間静止して、今度は布だけが更に持ち上がる。
テントの中で蹲っていた生き物が立ち上がり首を擡げるようだ。
布が滑り落ちると中から、巨大な白山羊が現れた。
 
 
校舎の屋上が山羊の肩辺り、前足にベージュの作業ズボンを穿いて、頭には郵便配達夫のような帽子を被っている。
口元は薄桃色の皮膚が透けて柔らかく微笑み、眼は円らに此方を向いているのだが、横長の細い瞳孔が何処を見ているのかわからない。
大山羊は私に向かって可憐に小首を傾げると、前足の片方を大きく振り上げた。

 
呆然と見上げる私に影が落ちる。
巨大な蹄が近付いて来る。
ちょっと待て、近過ぎないか?
全身が竦み上がる感覚に我に返り駆け出すと、すぐ背後に重い振動。
見上げると山羊は、踏み下ろした足に体重を掛けてもう片方の前足を振り上げている。
踏み潰す気か。
 
 
全力で走った。
大山羊が追い掛けてくる。
口元は柔らかく微笑んだまま、時折小首を傾げて、瞳は相変わらず何処を見ているのかわからない。
いつの間にか校庭に出ていた。
校門と反対方向へ逃げてきてしまったことに焦る。
しかしそのうちに慣れてきた。
大山羊の一足は重いが、さほど速いわけではなく、狙い方に捻りはない。
落ち着いて行動すれば逃げ切れそうである。
そうだ、このまま裏庭の方へ逃げて裏門から出よう。
 
 
その時、裏庭へ続く校舎の陰から白いものが現れた。
結構な速さで近付いて来る。
小さな白山羊だった。
まだ頼りない骨格にあどけない表情。
薄桃色の皮膚が透ける腹を此方へ向けて前足を突出し、後足はキャタピラになっている。
頭は私の胸くらいで、「山羊型戦車」のような姿。
腹と同じく薄桃色に透ける口元は柔らかく微笑み、眼は円らに此方を向いているのだが、横長の細い瞳孔が何処を見ているのかわからない。
 
 
あっという間に近くに来た。
きゃりきゃりと鳴るキャタピラは恐ろしく小回りが利き、野生の小魚のように大山羊の足の間を縫って私を追う。
小山羊に気を取られていたら大山羊に踏まれそうになった。
二頭で追い詰める気か。
 
 
全く余裕がなかった。
全力で必死に逃げた。
正門の方にも裏門の方にも行くことが出来ない。
 
 
ふと思った。
私は何を忘れたのだっけ。
数学のノート?そうだ、月曜には数学のテストがあるのだった。
いや待て。私は数学のノートを取っていない。
数学の授業にすら出ていないではないか。
私は一体何年間、数学の授業をさぼり続けているのだろう。
どの辺りが出題範囲であるのか見当もつかない。
 
 
いや違う。忘れたのは体育着だったか?
そうだ、ゼッケンを付け直さねばならないのだった。
適当に書いて縫いつけたらば、うっかり水性マジックを使ってしまい、数回の洗濯ですっかり落ちてしまったのだ。
いや待て。ゼッケンに何と書けばいい?
クラス、出席番号、ID…私は何かしらの所属番号などを持っていたか?
 
 
校舎の窓が夕焼けに染まっている。
私のクラスは何処だっけ。いやそもそも…
飼育小屋が目に入る。
飼育当番ではなかったはずだ。
だがしかし、家で飼っている十姉妹、私はあれにもう何年餌をやっていないだろう。
 
 
大山羊小山羊は追ってくる。
白い毛並みが茜色に染まり、相変わらず口元は微笑んで、時々小首を傾げ、瞳は何処を見ているのかわからない。
 
 
下校を促す音楽が鳴り始めた。
帰らねば。でも何処へ?
この町に私の住居はない。
近所に住んでいた祖母も今はいない。
私は何処に住んでいたのだっけ。
帰り道を思い出せない。
忘れ物を持ち帰らねばならないのに。
 
 
山羊の瞳が怖かった。
とにかく逃げた。
半泣きで逃げた。



(いい年こいて時々この手の夢に魘されます)
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夢を見た。


近所の川に釣糸を垂らしたら、小さな蛸が掛かった。
大きさからしてイイダコのようだ。
針を抜いて頭を持ち足を引き抜くと、中から一回り大きい蛸が現れた。


現れた蛸は黄色み掛かって力強い。
手に絡み付いて来るので慌てて地面に落とす。
するとむくむくと成長しながら黄色みを増し、私の膝を少し越えるくらいの黄金色の蛸になった。


連れて帰ることにした。
蛸は足の一本を私の手に絡め、にゅるにゅると付いて来る。
蛸に合わせてゆっくりと歩き、時間を掛けて、間借りをしている祖母の家に着いた。


蛸はいつの間にか男児になっていた。
三・四歳くらいだろうか。私の手にぶら下がるようにくたりとしている。
抱き上げて家に入る。
疲れているようなので早く寝かせてやらねばと思うのだが、この日は親戚たちが大勢泊まりに来ていたため、どの部屋どの布団にも空きがない。
私の部屋に寝かすことにした。


男児を抱えて布団に入り、頭の下に腕を差し込んでやった。
いつの間にか七・八歳くらいに成長している。
顔を見ると、やけに美しいので驚いた。


目が合うと、男児はすくりと首をもたげ晴れやかに微笑んだ。
そして、自分は神である、と言った。
続けて、私はもっと人を描くべきだ、と。


え?人ですか?ええと…人物画にも挑戦したいのだけど、その前に人体を…あれとあれを描いて…でもあれの前にこれを描いてから…
などと慌てて思い巡らせていると、男児が口に手を突っ込んできた。
白く細い指が無遠慮に口内を掻き回す。
するとかしゃりと音を立てて三本の歯が抜けた。


しまった!
慌てて立ち上がり、両手で口を押さえた。
男児の姿は何処にも見えず、蛸の姿もない。
どうやら「してやられた」らしい。


私は立ち尽くし、口内の喪失を噛み締めた。



(説話的に表現すると、「捕らえた蛸に歯を盗られしこと」とかになるのかなぁ。なんか、悔しい)
営み


夢を見た。


祭りの日。
町には晴れやかなざわめきが満ちている。
祭り装束に身を包んだ人々が連れ立って歩き、着飾った家族連れが道を急ぎ、其処此処の商店からは店主が顔を出し楽し気に辺りの様子を窺っている。


街の一角に廃墟がある。
元は役所であったらしい。
通る人も思い出す人も殆どないその裏庭に、猫科の大型獣の群が居た。
獣達は互いの肉を食らいながら交配していた。


艶やかな毛並みが縺れ合い蠢き、何処から何処までが一頭の個体であるのかわからない。
辺りには、血肉のたてる濡れた音と低い唸り、濁音の混じった息遣いのみが響いている。
ただひたすらに営みが続いてゆく。


交配している獣達から少し離れて、朽ちゆく獣達が居た。
その肉の殆どを失い灰色の消し炭のようになって目を閉じる者。
目を伏せて灰色に変わりつつある者。
既に風化しつつある者。
何れも皆柔らかく優しげな表情をしている。
祭りの出店から出たのであろう塵や、元は提灯・札・紙垂・ポスター等であったと思われる紙片の吹き溜まる中で、静謐な空気を纏っている。


また少し離れて、年若い獣達が居た。
幼年から青年の一歩手前くらいだろうか。
ほやほやと柔らかい暖色の毛並みを寄せ合ってむくむくうずうずと蟠っている。
ある者は朽ちある者は生まれ、群の規模には大して変動がないようだ。


たまに近くを通る人が居るが、獣達を気にする様子はない。
獣も人も、各々の営みに忙しいのだ。


不意に空気が張り詰めた。
獣達が営みを止めて空を仰ぐ。
抜けるような青空に、声なく咆哮し身を振り立てる。
其処此処で毛並みがぱくりと口を開き、薄桃色の肉が覗いた。



溶け合い煙るような毛並みを背景に、艶々と濡れた肉が幽かに震え蠢き、陽を受けてきらきらと光る。
蕩けそうな陽炎の中で咲き誇る大輪の花のようだ。


遠くの喧騒と祭り囃子が幽かに聞こえてくる。
獣達は高らかに、噎せ返るような「生」を主張していた。

博物館の注連家鴨(しめあひる)


夢を見た。


広い、博物館のロビーのような処。
床は白黒の市松で、天井は高くドーム状で大聖堂のような凝った装飾が施されている。
中央に無人のカウンター。回りに低い机と椅子。
誰もいない。
空港や病院の待合室にも似ている。
その中を、背に水引で紙垂をくくりつけた注連飾りのような家鴨が一羽、ぺたぺたと歩き回っている。
短い尾羽をぴこぴこと動かしながら、時折振り返って笑ったような目でこちらを見る。


一隅に、十メートルほどの石造りの橋。
欄干には西洋風の、炎のような唐草のような装飾。
袂は影のように霞んでいる。
渡っていると、向こうからランドセルを背負った数人の児童がやって来て擦れ違った。
児童の一人が何やら緊張した様子で耳打ちをしてくれたのだけど、よく聞き取れなかった。
続いて色素の薄いウェーブヘアの女性が近付いてきて、私が待ち合わせをしている人物についてのあまりよろしくない評判を口にした。
私はその人物に手紙を書かねばならないのだが、紙が薄っぺらく粗悪でうまく書けない。
家鴨がこちらに向かってしきりに鳴きたてている。


橋の対面の隅はちょっとした畳敷きになっていて、素敵な絵の描かれた屏風が並んでいる。
蔓草の花、桜の幹と花、流水…をモチーフにした日本画。
戯画のような狸と兎の墨絵。
橋を離れると人の気配はしなくなった。
家鴨と私の他に誰もいない。
手持ちの紙を全て反故にしてしまったので、手紙を書くのは諦めた。


不意に約束の刻限が迫っていることを思い出し、慌てて外に出た。
建物の外観は映画館に似ていた。
日差しが強い。
急がねばならない。
車道を横切って歩道を歩き、街路樹の陰で一息ついたら、また思い出した。


これからあの建物は爆破されるんだ。
なんてことだ。戻らねば。
いや待て。
違う。
もう既に、爆破されてしまったんだ。
数年、数十年、若しくは数百年前に。
待ち合わせていたのは、その爆破した犯人だ!


なんてことだろう。
私は犯行を止められたかも知れないのに。
博物館は失われてしまった。
胸と頭に「何か息苦しいもの」がぎっしりと詰まって、破裂しそうな心地になった。
…いや待て。


建物はまた建てればいい。
絵はまた描けばいい。
でも。
そうだ。あの家鴨。
私はあれを連れて来るべきだった。


振り返ると、博物館は其処に無く、ありふれた住宅街が広がっている。
「息苦しいもの」が水のような悲嘆に変わり、溢れ出そうな心地になった。
失われた博物館の中で、家鴨だけは生きていた。
それに、だってあの家鴨、とっても可愛かったのだ。


21de2196.jpeg

創世


絵が仕上がる前日に見た白昼夢


描いていた。
ただひたすらにペンを動かしていた。
そのうちに、意識に薄い布が被さるように白昼夢が始まった。


私は十才前後で、何処までも広がる草原に立って空を見上げていた。
モノクロームの空は何処までも広がり、雲が一杯に流れていて…
何だろう、何と言うか、「元々は私は此処に居た」ような心地がしていた。


描き進むうちに、また別の白昼夢が始まった。
私は年を取っている。
岩山を登っていた。
元々は何かしらの使命感を心に灯していたような気もするのだけれど、繰り返し立ち塞がる何やかやとの対峙のうちにいろいろ磨り減り朦朧として、思考はただ「疲れた。しんどい」に占められている。
そのうちに、大きな岩の重なりの前に辿り着いた。
平らな塚のように積まれた岩。辺りには木片や石、千切れた縄などが散乱している。


気持ちと体が更に重くなった。
何度この岩戸に挑んだことか。
その度に力の全てを振り絞って試みたのに全く歯が立たず、私はすっかり疲弊してしまった。
被さる岩に両手を当てるが、指先も腕もすっかりひび割れて、ろくに力が入らない。
私には、無理なのか。
膝を地に付きうなだれた時、ふと頬に微かな風を感じ…
顔を上げると、目の前の岩が音もなく動いていた。
岩と岩の間から、何かしらの瑞々しく清々しいものが、恐ろしく大量に爆発的に立ち昇る。
間欠泉のように、しかし途切れる気配のないそれは、昇りながら雲となって素晴らしい勢いで拡がっていった。


灰色の重苦しい大気を払うように、空が生まれる。
雲の切れ間からは抜けるような青空が覗き、其処から差す光に照らされて、雲は豊かな色を纏い輝く。
それは、今までに見た何よりも美しいように思われた。


足元にはいつの間にか青々とした草原が広がっている。
もうひとつの白昼夢がぱちりと音をたてて組み合うような心地がした。
私は現在の私である。
聴覚は、寺の鐘の音の余韻のようなもので満たされている。
ふと阿弥陀如来来迎図を思い出し、「あれ、私って死んだんだっけ」と一瞬本気で迷った。
「そうだよ死んだんだよ」と言われたら、「そっか~仕方ないな」とあっさり納得したかも知れない。
いや、そんなことはどうでもよい。
私が死んだのでも生まれたのでも大した違いはない。
今、世界が始まったのだ。

 

そのうちに白昼夢は薄氷のように溶け、意識は現実に戻った。
描いていた。
ただひたすらに手を動かしていた。
そして同時に声を上げて泣いていた。
自分の状態に気付いた瞬間、手が止まり、泣き崩れた。
胸の内で間欠泉が噴き上がるように、嗚咽が止まらない。
そのうちに嗚咽は咳き込みに変わり、息が苦しくなって、意識が途切れた。


目覚めたら、白昼夢はすっかりと霧散していた。
意識は冷静で、体力の限界が近いこと、最後の一滴まで振り絞れば「完成」に辿り着ける可能性はあるが保証はないことが、わかっていた。
また、この制作の間にはもう白昼夢は見ないこと、また先程のような白昼夢はしばらく見ることがないことを、理解していた。
とにかく、力の限り、描こう。


この白昼夢で感じた圧倒的な幸福感には、大いに励まされるような心地がした。
私は元々あの場所に居て、あの場所に還るような気がする。
本気で描き続ければ、またいつかあのような白昼夢を見るかも知れない。
「あの場所」へ行くことが出来るかも知れない。
それならば、大概のことには耐えられる。
そんな気がした。



545c6f96.jpeg
















(翌日この絵が仕上がりました)
プロフィール
HN:
玉川麻衣
年齢:
46
性別:
女性
誕生日:
1977/05/08
職業:
絵描き
趣味:
酒、読書
自己紹介:
ペン画を制作しています。 詳しくはカテゴリー「プロフィール」よりご覧下さい。

連絡先→tamagawa10@hotmail.com
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