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玉川麻衣の作品、日記、展示等のお知らせです。  新しい作品はカテゴリー「ペン画1」に入っております。 個展 7月:八犬堂ギャラリー(京橋) 10月:ストライプハウスギャラリー(六本木)
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スパルタ式猫工場


「国分寺」に似た名前の町を、知り合いと連れ立って歩いていた。
緩やかな坂の途中に、小さな工場があった。
ペンキの剥げ落ちたドアを開けて入ると、薄暗く埃っぽく古い倉庫のようだった。
片隅に、縦に短く平たい、青果店に出荷されるレタスのそれのような段ボール箱が、無造作に積んである。


作業着を着た男性が、一番上の箱を床に下ろして開くと、猫の仔がぎっしりと詰まっていた。
ピンクがかったオレンジ色の毛並みでまだ目も開かず、ほやほやしてみぃみぃと鳴いている。
下請けの工場から仕入れるらしい。


工場の中央、手前から奥へ向かって川のように、浅い溝があり、赤く焼けた小石が敷き詰められている。
その上に三本のベルトコンベアが橋のように架かっている。
作業着に軍手、白いタオルを頭に巻いた男性たちが、猫の腹を両手で抱えてベルトコンベアの上にかざし、走らせている。
奥から手前へ、段々と大きな猫が扱われている。


しっかり抱えられているから焼け石の中へ落ちることはないのだが、猫は知らずに、必死に走っている。
毛を逆立てて顔をくしゃくしゃにして、それはもう必死に走っている。
抱える男性も、大粒の汗を滴らせ歯を食いしばっている。
工場主が言うには、こうして鍛えることによって、猫は猫たり得るのだそうだ。


鍛え上げられた猫たちは、中から特に強靭な者数匹が選ばれて精鋭部隊を組み、特殊任務を与えられるらしい。
例えば、夕方に鳴るチャイムのような音楽、あれの音色を微妙に歪めて人々の胸中の心細さを煽るのは、精鋭猫の仕事であるのだそうだ。
任務は他にもいろいろあるらしいのだけど、教えてもらえなかった。
そして残りの者は野良として放逐されるのだそうだ。

 
一緒に見学していた知り合いが仔猫の箱を覗き、「人工孵化だな」と呟いた。
猫もいろいろと苦労をしているのだな、と思った。
 

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もうひとつ。
あの、まだ幾らかあるんだけど…ぽちぽち掲載してもよいかなぁ…
(散々うわずった日記書いてるし、今更か)



白の番人


だいぶ落ち込んでいた時に見た夢。


風が強い。
大気一杯に吹き荒れている。
私は校庭のような広場に立っている。
広場の周囲には葉の落ちた巨木が聳え、その枝のところどころに綱が張られて、大きなシーツのような白い布が干してある。
何本かの木には白い木蓮のような花がみっしりと咲き、また何本かには白い鷺のような鳥が溢れんばかりに止まっている。


風に吹かれて、白が舞い上がる。
布が吹き上がり、花弁が舞い上がり、鳥が飛び立ちまた戻る。
青い空を背景に、それらはどこまでも白く。
咲いたばかりの花のように、炎のように、砕け散るように湧き出るように、ただひとつの圧倒的な白として、吹き上がる。


布が吹き飛びそうになったら押さえて干し直すのが、私の仕事であった。
布は案外に軽かった。
私の身も軽くて、するすると木に登り、易々と直すことが出来る。
それ以外の時間はただ茫然と立ち尽くして、いつまでも白を見ていた。
なんて美しいんだろう。
この世のものとは思えない。
なんて美しいんだろう。
繰り返し声に出した。


目覚めたら気分が軽くなっていた。
あの白は、今も胸の内に燃えている。
 

以前書いた夢日記の中から幾つか取り出して、少し整えてみました。
「夢十夜」のまねっこです。


蝦大黒


テナガエビのような大黒さんの夢を見た。


真っ白な漆喰の壁に、焦げ茶掛かった黒の立派な柱。
目の高さくらいの位置に、三十センチほどの大黒さんがにこにこと笑っている。
私は土間に立ってそれを見ている。
大黒さんの肩から上へ、肘を軽く外側へ曲げて菱形のように、伸びやかな若々しい腕。手首は真っ直ぐに指先をすぼめている。
肘を伸ばせば身長の倍くらいに長そうだ。
腹には三対の赤子のような手が、行儀よく握られて並んでいる。
長い腕が時折ゆっくりと揺れる。


その下には十センチばかりの折り紙のような人型が、縦に幾対か並んでいる。
布袋さんや恵比寿さんだろうか。


奥の間から人が出てきた。
奥の方は影になってよく見えず、その人の顔にも影が落ちてよく見えない。
手を前で組んで畏まり、大黒さんのご由緒を説明してくれた。
いつの間にか私の斜め後ろに立っているので、視界の隅に影が映るばかりで姿形を捉えられない。
此処は旧家であり、代々この大黒さんを大切にお祀りして来られたのだと。
長い腕の理由を説明され、その時はなるほどと感じ入るのだが、すぐに記憶から抜け落ちてしまう。


合掌して顎を引き拝む。
うっかりしていると長い腕に捕まってしまうような気がする。
緊張を解けない。
大黒さんは相変わらずにこにこと笑っている。
長い腕はゆらゆらと、気配を探るように動いている。
腹の手たちは動かない。


背後から厳しい気配が伝わってくるので、拝むのを止められない。
ふと、あの長い腕で捕らえられた時に、腹の小さな手たちが動くのかな、と思った。
鳩尾に冷水が広がるような恐怖を感じた。
背後の気配の厳しさが増す。
拝むのを止められない。
小さな人型たちがくつくつと、静かに泡立つように笑いはじめた。

プロフィール
HN:
玉川麻衣
年齢:
46
性別:
女性
誕生日:
1977/05/08
職業:
絵描き
趣味:
酒、読書
自己紹介:
ペン画を制作しています。 詳しくはカテゴリー「プロフィール」よりご覧下さい。

連絡先→tamagawa10@hotmail.com
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