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玉川麻衣の作品、日記、展示等のお知らせです。  新しい作品はカテゴリー「ペン画1」に入っております。 個展 7月:八犬堂ギャラリー(京橋) 10月:ストライプハウスギャラリー(六本木)
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創世


絵が仕上がる前日に見た白昼夢


描いていた。
ただひたすらにペンを動かしていた。
そのうちに、意識に薄い布が被さるように白昼夢が始まった。


私は十才前後で、何処までも広がる草原に立って空を見上げていた。
モノクロームの空は何処までも広がり、雲が一杯に流れていて…
何だろう、何と言うか、「元々は私は此処に居た」ような心地がしていた。


描き進むうちに、また別の白昼夢が始まった。
私は年を取っている。
岩山を登っていた。
元々は何かしらの使命感を心に灯していたような気もするのだけれど、繰り返し立ち塞がる何やかやとの対峙のうちにいろいろ磨り減り朦朧として、思考はただ「疲れた。しんどい」に占められている。
そのうちに、大きな岩の重なりの前に辿り着いた。
平らな塚のように積まれた岩。辺りには木片や石、千切れた縄などが散乱している。


気持ちと体が更に重くなった。
何度この岩戸に挑んだことか。
その度に力の全てを振り絞って試みたのに全く歯が立たず、私はすっかり疲弊してしまった。
被さる岩に両手を当てるが、指先も腕もすっかりひび割れて、ろくに力が入らない。
私には、無理なのか。
膝を地に付きうなだれた時、ふと頬に微かな風を感じ…
顔を上げると、目の前の岩が音もなく動いていた。
岩と岩の間から、何かしらの瑞々しく清々しいものが、恐ろしく大量に爆発的に立ち昇る。
間欠泉のように、しかし途切れる気配のないそれは、昇りながら雲となって素晴らしい勢いで拡がっていった。


灰色の重苦しい大気を払うように、空が生まれる。
雲の切れ間からは抜けるような青空が覗き、其処から差す光に照らされて、雲は豊かな色を纏い輝く。
それは、今までに見た何よりも美しいように思われた。


足元にはいつの間にか青々とした草原が広がっている。
もうひとつの白昼夢がぱちりと音をたてて組み合うような心地がした。
私は現在の私である。
聴覚は、寺の鐘の音の余韻のようなもので満たされている。
ふと阿弥陀如来来迎図を思い出し、「あれ、私って死んだんだっけ」と一瞬本気で迷った。
「そうだよ死んだんだよ」と言われたら、「そっか~仕方ないな」とあっさり納得したかも知れない。
いや、そんなことはどうでもよい。
私が死んだのでも生まれたのでも大した違いはない。
今、世界が始まったのだ。

 

そのうちに白昼夢は薄氷のように溶け、意識は現実に戻った。
描いていた。
ただひたすらに手を動かしていた。
そして同時に声を上げて泣いていた。
自分の状態に気付いた瞬間、手が止まり、泣き崩れた。
胸の内で間欠泉が噴き上がるように、嗚咽が止まらない。
そのうちに嗚咽は咳き込みに変わり、息が苦しくなって、意識が途切れた。


目覚めたら、白昼夢はすっかりと霧散していた。
意識は冷静で、体力の限界が近いこと、最後の一滴まで振り絞れば「完成」に辿り着ける可能性はあるが保証はないことが、わかっていた。
また、この制作の間にはもう白昼夢は見ないこと、また先程のような白昼夢はしばらく見ることがないことを、理解していた。
とにかく、力の限り、描こう。


この白昼夢で感じた圧倒的な幸福感には、大いに励まされるような心地がした。
私は元々あの場所に居て、あの場所に還るような気がする。
本気で描き続ければ、またいつかあのような白昼夢を見るかも知れない。
「あの場所」へ行くことが出来るかも知れない。
それならば、大概のことには耐えられる。
そんな気がした。



545c6f96.jpeg
















(翌日この絵が仕上がりました)
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過去の中の未来
未来の中の過去
在るようで無いような不確かな現在

演奏中、この世には存在しない故郷の気配を感じることがあります。
泣きたいくらい懐かしいのに。
硝子の泡の中に入れない切なさに似ています。
私も、「イッてる」のでしょうか?
10string 2012/10/08()03:31:53 編集
ごめんなさい
「硝子の泡…」なんて美しいお言葉でしょう。
10stringさんは繊細なお方なのですね。
私は無神経ながさつ者ゆえ、ご不快にさせてしまいましたら、ごめんなさい。
実は絵の仕上げの時には、文字通り泣いて笑ってのたうち回って鉛筆やペン軸を噛み折って…という状態になりまして、どう見ても「正気でない」様子であると思います。
ここにそのことは書いていないのに、客観視と配慮が足りなかったこと、反省しております。
今後このようなことがないように、気を付けて参ります。
玉川 2012/10/08()14:08:00 編集
えっ? えっ? えっ?
私の文、不快を感じているように見えます?
逆ですよ! 深ぁ〜く共感して、同じような世界を彷徨されているのだなぁと嬉しくなったのです。
演奏は基本的に人様の前でするので、私は尋常じゃない姿をさらす分、罪深いと思います。罪深いです。

私のほうこそ言葉足らずで、心ならずも傷つけてしまったこと、反省しております。
今後、このようなことにならないよう、気をつけます。
10string 2012/10/08()16:27:40 編集
失礼いたしました!
お返事が遅くなってしまってごめんなさい。また勘違いからの失礼、お詫びいたします。

衝動的な郷愁を感じること、ありますよね。
人にはそのような瞬間があるものらしいなと、本などを読んでいて思います。
脳味噌にはそのようなスイッチがあるのでしょうか。
何らかの脳内物質の仕業なのでしょうか…?
玉川 2012/10/13()12:56:14 編集
プロフィール
HN:
玉川麻衣
年齢:
46
性別:
女性
誕生日:
1977/05/08
職業:
絵描き
趣味:
酒、読書
自己紹介:
ペン画を制作しています。 詳しくはカテゴリー「プロフィール」よりご覧下さい。

連絡先→tamagawa10@hotmail.com
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