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スパルタ式猫工場
「国分寺」に似た名前の町を、知り合いと連れ立って歩いていた。
緩やかな坂の途中に、小さな工場があった。
ペンキの剥げ落ちたドアを開けて入ると、薄暗く埃っぽく古い倉庫のようだった。
片隅に、縦に短く平たい、青果店に出荷されるレタスのそれのような段ボール箱が、無造作に積んである。
作業着を着た男性が、一番上の箱を床に下ろして開くと、猫の仔がぎっしりと詰まっていた。
ピンクがかったオレンジ色の毛並みでまだ目も開かず、ほやほやしてみぃみぃと鳴いている。
下請けの工場から仕入れるらしい。
工場の中央、手前から奥へ向かって川のように、浅い溝があり、赤く焼けた小石が敷き詰められている。
その上に三本のベルトコンベアが橋のように架かっている。
作業着に軍手、白いタオルを頭に巻いた男性たちが、猫の腹を両手で抱えてベルトコンベアの上にかざし、走らせている。
奥から手前へ、段々と大きな猫が扱われている。
しっかり抱えられているから焼け石の中へ落ちることはないのだが、猫は知らずに、必死に走っている。
毛を逆立てて顔をくしゃくしゃにして、それはもう必死に走っている。
抱える男性も、大粒の汗を滴らせ歯を食いしばっている。
工場主が言うには、こうして鍛えることによって、猫は猫たり得るのだそうだ。
鍛え上げられた猫たちは、中から特に強靭な者数匹が選ばれて精鋭部隊を組み、特殊任務を与えられるらしい。
例えば、夕方に鳴るチャイムのような音楽、あれの音色を微妙に歪めて人々の胸中の心細さを煽るのは、精鋭猫の仕事であるのだそうだ。
任務は他にもいろいろあるらしいのだけど、教えてもらえなかった。
そして残りの者は野良として放逐されるのだそうだ。
一緒に見学していた知り合いが仔猫の箱を覗き、「人工孵化だな」と呟いた。
猫もいろいろと苦労をしているのだな、と思った。
連絡先→tamagawa10@hotmail.com