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憑きもの
夢を見た。
平和で豊かな温泉地、その山中に、年若い可憐な巫女がひとり住んでいる。
ある日巫女に懸想する青年がやって来て、何かしらの方法でもって彼女を眠らせた。
そこに物の怪が現れる。
白猫の頭から白い華奢な男性の腕が一本生えたもの。
桃色がかった白い鞠に猫の顔が付いたもの。
前者はその腕でけんけんをするように、後者は跳ねて、巫女に近付き吸い込まれるように…
憑いた。
修験者が現れて、私に「向こうの山の寺の住職に助けを求めに行け」と言う。
私は巫女の友人であるらしい
「こちらの山」と「向こうの山」は、廃屋のような建物の棟が隔てている。
下山して街を過ぎ、塵捨て場を抜けてブロック塀をよじ登り、崩れかけた瓦屋根を踏み越え、有刺鉄線を潜り…
降り立つと、隔てるものの向こう側には、小さな煤けた住居が並んでいる。
「こちら」の住居を二周りほど縮尺して三十年ほど古くしたような町並みは、がらんと静まりかえっているが廃墟ではないようで、息を顰めて身を縮めたような張りつめた気配に満ちていた。
道路を渡って山を登り、山門を潜る。
住職は奥の間に居るようだ。
その気配を強く感じながら寺に入ると、四五人の男性がまるで待ち構えていたように出てきて、何故か私を拘束した。
妙に手際よく一頭の黒牛と共に小さなワゴン車の後部に押し込まれ、発車。
連れて行かれた先は、何かの道場のようだった。
庭は綺麗に整えられて、薄紅の芍薬が咲いていた。
建物から二十人ほどの老若男女が出てきて、私の乗ったワゴン車を取り囲む。
運転手はいつの間にかいない。
人々は少し遠巻きに、さわさわと囁き交わし、小さく笑う。
顔はよく見えないが嘲られているようだ。
気付くと牛が死んでいる。
私は気持ちと力を振り絞って車の外へ出た。
裏山に、逃げ込まなくては。
夢中で走り出すと、何故か人々は道を開けた。
全力で走る。
繁った草や低木や枯れ木が体を打ち絡み付くが、痛みは感じない。
走るうちに、自分は逃げているのか追っているのか、よくわからなくなった。
ふと思う。
あの巫女を眠らせた青年は何処へ行ったのか。
ことによるとあの青年こそが物の怪であったのではないか。
あたりの風景が曖昧になる。
私自身も曖昧であるような心地になってくる。
私は何故彼処に居たのだろう。
あの美しい巫女の友人であったのか。
それとも憑いた物の怪であったのか。
何かを思い出しそうな心地になったのだけれど、その前に意識が曖昧になり、溶けた。
連絡先→tamagawa10@hotmail.com