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玉川麻衣の作品、日記、展示等のお知らせです。  新しい作品はカテゴリー「ペン画1」に入っております。 個展 7月:八犬堂ギャラリー(京橋) 10月:ストライプハウスギャラリー(六本木)
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少し前のこと。


母と二人で、母方の祖母が入居している介護老人施設を訪ねた。
電車を乗り継ぎ駅から長く歩いて着いた先は、静かで陽光がよく入り、小中学校の昼休みから児童を取り去ったらこんな感じかな、と思う空間だった。


四年ほど前まで、両親と共に祖母の家に間借りしていた。
その間に祖母は認知症を発症し、私は身の回りのことを手伝っていた。
その家は、主に金銭方面の都合から売却され、取り壊されて今では駐車場になっている。
本当にいろいろなことがあった。
当時祖母は、「誰しも持っているけど隠しているどす黒いもの」が景気よく表に出たようで、なんというか大変にワイルドであったのだけれど…
久し振りに会った祖母は、「黒いもの」や諸々が洗い晒されたようで、白っぽく何処かふわふわと浮遊するように見えた。


「来てくれて嬉しい」と無防備に溶けそうに笑う顔の、その造形のパワーにどきりとした。
手を繋ぐ。
白いパリパリとした油紙のような皮膚の下に微かに赤い血の色が透け、青い血管が縦横に巡り、指先は白く蝋細工のようだ。
この造形は文句なしに美しい、と思った。


祖母と母が抱擁し合い笑い合う。
長く確執を抱えていたこの二人は、顔を合わせばぶつかり合い、度々怒鳴り喚き泣き、そらもうワイルドであったので…
このように触れ合うのはおそらく、母が幼い頃以来なのではないだろうか。
見ていたらわけもなく、「人」て美しいものなのかも知れないなぁ、と思った。



そうこうするうちに昼食の時間になったので、一旦席を外した。
廊下の片隅の談話スペースのような所に腰掛けていたら、通行中の入居者の男性と目が合った。
その男性は常に其処此処を歩いていたので、おそらく徘徊癖があるのだろう。
しかし、背筋を伸ばしてしゃきしゃきと歩いているし、たまに箒を持っているしで、なんだか見回りをしているようで…
「町内会の世話好きで器用なおっちゃん」といった風情であった。


挨拶をすると、「おっちゃん」は中々のスピードで歩いて来て向に掛け、「綺麗だね!俺のお袋に似てるよ!」と言った。
「化粧をした笑顔の女子」が珍しかったのだろう。
身を乗り出して矢継ぎ早に「本当似てるよ!ねぇ、お袋に会ったことある?話した?」「最近姿が見えないんだけど…ねぇお袋知ってる?話した?」等と聞かれた。
薄く白濁と黄濁のある眼球は真っ直ぐに私に向き、期待にきらきらと輝くようで、子供よりも明け透けに見えた。
好ましい女性=綺麗=お母さん、なのだろう。
「おっちゃん」のお年(たぶん八十代)から考えて、おそらくお母様はご存命でないのではないかしら。
男の子は幾つになってもお母さんが大好きなのだなぁ。



その晩、寝室へ行こうとする母が何処か不安気に物言いた気にしていたので、昼間、母が祖母にしていたように抱擁した。
自室にて、「おっちゃん」の眼球を思い出して少しの間泣いた。
まったく「人」てぇのは。
「人」てぇのは。



この、何とも言い難いこのあれを、「美しい」と表現してもよいのかも知れない。
昨日そのように思い至った。
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プロフィール
HN:
玉川麻衣
年齢:
47
性別:
女性
誕生日:
1977/05/08
職業:
絵描き
趣味:
酒、読書
自己紹介:
ペン画を制作しています。 詳しくはカテゴリー「プロフィール」よりご覧下さい。

連絡先→tamagawa10@hotmail.com
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